福島原発の2023年8月の処理水放出を受けて、中国は日本政府に反発を強め、一部の中国人民による処理水放出を非難する旨の悪質なイタズラ電話が多発してワイドショーで取り沙汰されています。
中国の荒唐無稽な反応に対して「相変わらず厚顔無恥で面倒くさいだなぁ」と辟易させられている方が多いかと思います。私自身は中国語が好きで中国留学の経験があり、会社勤め後も中国駐在員として働いてきた私としては定期的に起こる反日ムードに寂しさを覚えると同時に上述した通りウンザリさせられています。
この記事では中国での生活歴10年の私が自身の経験を通して思っている「中国との付き合い方」を紹介します。ウンザリさせられるのはおそらく今後も続くかと思いますが、残念ながら隣国であるため地政学的に完全に縁を切れることはない相手であり、経済的にも直接的・間接的に日中双方で大きな影響力があることから完全に縁を切ることが現実的でない相手である以上は一個人として、或いは一会社員として今後どう付き合って行くべきなのか?について自身の考えを紹介していきます。
日本の処理水放出の中国の反応
今回中国は日本産の水産物全般を禁輸する強硬手段に出ましたが、これは当然中国人民にも直接影響が出てくる話なのですが、日本側の報道を見る限りでも中国側では実際に日本産を避ける傾向も少なからずあるようですね。ただ今回は2012年の尖閣諸島の国有化に端を発した反日デモのような大規模な騒乱はおきていないようです。
個人的に心配なのは中国全体が反日ムードに染まり一般人民も日本を毛嫌いする風潮が出てしまうと、大規模な反日デモが中国国内の各地で発生してくるということです。その場合、暴徒化した人民が現地の邦人に危害を与える可能性が高くなることが危惧されます。
すでに今回の処理水放出で青島、上海、蘇州の日本人学校では児童に対して危害を加える事例が発生しているようです。子供に危害を加えようとするなんて酷い話ですが、反日ムードがより強くなると公共物や車などの破壊行為などの犯罪行為であっても反日運動による行為については事実上お目溢しされる「反日正義」が曲がり通ってしまう可能性もあります(幸いにも当記事投稿の2023年9月時点では暴行被害の事例は日本のメディアでは報道されていないので、今回はそこまで激化していないようです)。
2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化したのを機に起きた中国各地での反日暴動が起きましたが、当時私は深圳で働いており、深圳の中心地のマンションに住んでおりましたが周辺地域では市民が暴徒化して武装化した武装警察が道や公安所の敷地内に常駐待機する事態も目の当たりにしました。私が当時勤めていた会社も反日デモで槍玉に挙げられ事業推進に大きく影響を受けました。
2012年9月の反日デモを振り返る(個人経験談)
当時の写真を掲載しますが当時は深圳の公安本部の真正面に住んでおりましたが、公安敷地内には特殊警察のバスがたくさん並び、特殊警察が大勢外で待機している状態でした。いくつか部隊が待機しており、時々団体訓練をしていたり、敷地外に出て行き行進・治安巡回(パトロール)している感じでした。
黒い装備品を身につけた公安特殊部隊以外にも緑色の迷彩服を着た人民解放軍(共産党の軍隊であるため、実質「国軍」です)も大通りでバリゲートを張って立っていました。立ってるだけで特に交通指示をしたり人民達に何か案内・ガイドをしている様子は何もありませんでした。いざ何か暴動が起きたら諌めるため・睨みを利かせていました。
反日運動が激化前の2011年は実は日中貿易額としては過去最高を記録するほど経済交流が活発だった状況だったにも関わらず、当時の中国にとって貿易最大相手国である日本に対しての仕打ちが「反日デモ」なわけなので、本当に無茶苦茶な国であり、所謂これが中国という「カントリーリスク」なのだな、と肌身を以て実感させられました。
当時の気持ちは「中国でも多くの中国人は日系企業で勤めており、企業は現地で雇用を産み生活・経済を支えている側面もあるのに、訳の分からない反日感情である日突然存在自体が悪であるかのように牙を剥かれ、暴力に遭うリスクに晒されて悔しさと無力感を抱いた印象が強く残っております。
2012年の状況と2023年の状況の相違点
2012年の反日デモは政府主導で人民によるデモ活動を誘発させた側面があり、中国政府に不満の矛先が向かわないように「反日」で以て人民の不満のガス抜きをしたものとよく言われています。
今回の処理水についても本質的には政府が一方的に日本を責め立て中国国内の原発状況についてはブラックボックスにしたまま中国国内の実情を明かすことなく日本を悪者に仕立てている構図かと思います。
2012年と2023年現在の状況で違う点は前者はあくまで人民は情報について受動的であり、受動的に受けた政府からの情報をきっかけにデモ活動に移ったかと思いますが、2023年現在では一部の人民自身が微博やTiktok等のSNS等で反日を煽る発信を主体的にできてしまっている点です。
どの国でも所謂「ネトウヨ」と呼ばれる人達は一定数いますが、中国でも同様でTiktokや微信で積極的に動画配信して反日感情を何の恥じらいもなく直球でぶつけている輩が少なからずいます。2012年の頃は通信インフラも動画配信サービスも今ほど充実しておりませんでした。個人で動画で宣伝活動的に情報発信する人はいなかった時期かと記憶しております。
現在は個人で情報発信できてしまい、中国国内での政治的な情報、とりわけ反中共的な情報発信は即バンされるため御法度なわけですが、なぜか反日的な情報発信はかなりスルーで垂れ流されています。写真は微信の「直播(LIVE中継のこと)」という機能で個人がスマホでライブ配信ができるサービスがありますが、写真の通り好き勝手し放題で荒唐無稽な論調が相変わらず繰り広げられています。
ネットの世界なので無責任に同調して盛り上がっているネトウヨもいれば、「荒唐無稽すぎん?」「主は小卒か?」とのコメントも一部あったりで決して煽り一辺倒ではない様相を見ると多少は救われた気になるのですが、兎にも角にも色んな人間が動画という比較的訴求力の強い媒体で主義主張を広範囲にできてしまってる状況が今回の反日気運の醸成に少なからず影響していると危惧しています。
中国との付き合い方
個人レベルでの中国との向き合い方・スタンス
世の中(日本含め、どの国にも共通するかと思いますが)冷静な考え・判断ができる人間は少数だと割り切って、「未来永劫分かり合えない。隣人であれば尚更そうなのである」と鷹を括って臨む姿勢が精神衛生上必要だと思っております。
こと中国に関して言えば中国は反日の側面を持ち合わせており、いつ何時それが表立つか分からないリスクがあるため、「もちつ持たれず、近づき過ぎず、頼り過ぎない距離感で深入りし過ぎない距離感で付き合って行く」しかないかと思います。個人レベルでは風向きが怪しい時には「君子危うきに近寄らず」で身の危険が及びそうだと思われるときは慎んだ行動をし、危険はおかさず距離をとるようにしていくしかありません。
昨今の反日気運が高まった際の注意事項
反日気運が高まってしまった際は下記事項に注意して過ごす必要があります。
- 君子危うきに近寄らず 群衆が集まっている場所は騒乱が起きやすいため興味本位に近づかない
- 反日機運が高まり情勢不安な時は人が大勢いる場所ではあまり日本人らしさを出さない方が無難(大声で日本語を喋って目立つ行為などを控える)
- 地元民の反感を買い易いナイトクラブや風俗などの店には行かないようにする。
私の駐在期間中に反日気運が高かまった頃は街中の屋台で日本人がチャーハンを浴びせられた、タクシーでぼったくられた、タクシーで知らない場所に連れて行かれて怖い兄ちゃん達にボコられた、などの事件が起きて総領事館から注意喚起メールが届いてました。
正論を掲げても“話にならない”相手は世の中にいっぱいいるのが現実社会であるため、悔しいですが自分や家族に危害が加わらないように、ほとぼりが過ぎるまでは大人しくしておくのが無難です。
仕事で付き合わざるをえない場合の付き合い方(心のもち様について)
「今まで中国担当としてやってきたけど、この情勢下でこのまま中国と担当としてやっていっていいのか?」と不安に思う方は多いかと思います。上述した通り、感情的に「中国が面倒で嫌だ」と思ってしまうのは人間である以上は仕方がないと思います。
そのような方には私自身の経験も相まって大いに同情してしまいます。昨今の中国情勢で中国ビジネスが残念ながらとにかく大変で「ハズレくじ」的な位置付けになってしまいましたが、そんな時だからこそ、中国ビジネスに携わる人材は稀少なのであり、存在意義は大きいのだと個人的には考えております。精神論と思われるかもしれませんが、人が嫌がる仕事ほどそれに対峙する人は会社にとっては貴重であり、パフォーマンス次第では一目置かれます。
例えば今後現実的に中国事業の撤退や縮小を考える日系企業は多くなるかと思います。中国で一度建てた法人を登記抹消するのは外資企業だとなかなか骨が折れる作業ですが、会社としては絶対に必要な実務ですし、実務者がいなければ撤退は実現しません。消極的な業務かもしれませんが、絶対に必要となる業務なため、それに関わるのはある意味業務経験を積めるためラッキーチャンスと言えます。
私自身も実は日本の本社に帰任後に古巣の中国法人を畳む業務を日本本社側でサポートしましたが、日本の関係会社・取引先が一部出資してた会社だったため、ペーペー社員だった私でも出資会社のお偉いさんに会って畳む経緯と畳むための業務手続きの説明をして了解を取得して書類を揃えて…という業務経験を積み、撤退業務の知見を深められました(撤退業務が大変であることを身をもって体験できた)。
また、社内外に置いてそれなりに前線的に業務に携わるので社内外でも一目置かれ「◯◯は中国ビジネスのことなら任せられる。中国のことについてはとりあえず◯◯に聞いてみよう」という具合に、良くも悪くも一定のプレゼンスが確立されました。複雑でタフな中国ビジネスの経験をしていれば他の国でも大抵「怖いものなし、なんでも来い」という胆力がついたと思います。
中国ビジネスで悩まれている方は多くいるかと思いますが、今後両国の関係が冷え切ることはあれど完全に縁が切れる事態は未来永劫ないので(これまでの歴史で関係が断ち切れたことは一度もないのが証明している)、是非とも体調管理を第一に前向きに捉えて今後も臨んでいただきたいと願っております。
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